ベルモード・ナカムラです

学校での成績はだいたい良い方で、
特に算術、国語、修身は私のもっとも得意とするところであった。
殊の外思い出深いのは、尋常四年の時、
女子生徒「みよし」(当時も今も私たちはそのように呼び捨てにする。)と競って、
私が一番、みよしが二番だった時のことである。
彼女は今尚嬉野にて健在であり、
その頃の事は今でも語り草になっている。


　
　
　このような訳で、私の好学心は家が貧しい故にいや応なしに高まってゆくのだが、
奨学金制度もなかった当時のこと、私は進学を諦めざるを得なかった。
自分でも、中学なんぞ行けないのだと、言い聞かせてはいたものの、
父から「お前は、佐世保の呉服屋に奉公することになっとる。」断言された時、
とめどもない涙のために、眠れぬ夜を過したのであった。


私のふるさと編　終わり

８月２３日
今日は　鉄六じいちゃんの命日です

１９８６年没
１０月７日の誕生日を前に
８９歳で亡くなりました

思い出は今でも鮮やかに私の心に残っています

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　私の父は、村では、働らき者でしかも律気者として通っていたらしい。
反面、家貧しくして孝子出ずという先人の言葉をそっくり信じて、
男女合わせて十人の子供の中から、一人ぐらいは何かをしでかすものが
出るだろうと考える程、呑気なところもあったらしい。
私は、物ごころがつきはじめた頃、なぜかそのような宿命を負わされて、
嬉野尋常小学校の分校・不動小学校に入学した。


　雨の日は破れ番傘をさし、雪の日は毛布を縫い合わせたもの
(今でいうオーバーコート)を頭からかぶって、片道一里余りの
畦道を毎日通った。
　長ずるに従って、農事作業の手伝いは勿論のこと、幼い弟や
妹の面倒を見ることが一日のうちの大半を占めるようになった。
朝早くから牛や鶏の餌の世話、草取り、肥料運びなど、
農作業には一日として休みはない。ひと仕事終えてから
学校に通うのである。




『私の履歴書　中村鉄六』より　原文のまま転載


中村鉄六の父
中村染吉


管理人おっかさんの
ひいおじいさんです

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　父・中村染吉、母・サク。私の祖先は、いかように詮索しても
武士の流れを引いている気配はなく、代々百姓で生計をたてて
来たらしい。僅かばかりの田畑では祖父母、両親それに
十人兄弟の喰いぶちを稼ぐには、相当の苦労があったろう
ことは想像に難くない。

　この貧しい農家の三男坊として、私は明治二十九年十月七日、
この世に生をうけた。そしてその後、いかなる運命の波に流されるか
知る由もなく、幼児の頃は、母親の袖をひっぱっては困らせたという。

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　今では、佐世保から　一番近い温泉であるから、特に馴染み深い。
　私は、この嬉野温泉より西へ八キロ、今の国道を西へ登った
ところで生れた。近くには、後年、天皇陛下に献上されたお茶の大木が
あり、嬉野川のせせらぎが聞えるという、まことにうららかな環境である。
　幼年時代、私たちは近くの小川でどじょうやカニ取りに興じ、
野いちごやあけびの甘味を楽しんだ。途中で雨が降れば、レンコン畑の
蓮の葉っぱが傘がわりになった。文字通り自然に親しみ、自然と共に
育ったと言っても過言ではない。

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～『私の履歴書　中村鉄六』より　原文のまま転載します～

私のふるさと

　佐賀県藤津郡、といっても地理に弱い人にはピンとこない。
しかし、「嬉野」と言えば、嬉野温泉、嬉野茶、それに、その昔
神宮皇后ご巡行の折、そのなごやかな人情や風情にふれられて
「嬉しいのォ」と言われたとかいう伝説もあって、
祐徳稲荷神社と共にその名は天下に響き渡っているようである。

　なだらかな丘陵は、一面みどりの茶木に覆われ、八十八夜の
頃ともなれば、あねさかぶりの茶摘み女が茶摘み歌をくちずさみ
ながら茶を摘む姿があちこちに見られ、静かに立ちのぼる湯けむりは
いやがうえにも旅情をかきたてる。近在からの湯治客は無論のこと、
参勤交代の往き来に、この温泉で疲れた身を癒す武士も多かったという。

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